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心理的安全性

心理的安全性を高める“傾聴”スキル「実践ガイド」

より良い職場環境とは?心理的安全性が高い組織の特徴

早速ですが、皆さまは「より良い職場環境」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
もちろん、「これが正解」といった明確な答えはありませんが、一つの理想的な姿として、「社員一人ひとりの心理的安全性(※1)が確保され、組織全体の労働生産性が高まり、それが会社の持続的な発展や成長につながっている状態」が挙げられます。
(※1)心理的安全性に関する記事はこちらをご覧ください。

このような環境を実現するための重要な要素の一つが、「上司や会社の人事担当者による効果的なサポート力」です。そして、そのサポート力を高めるための有効な手段の一つが、「傾聴」であると言えるでしょう。

本記事では、従業員の心理的安全性を高め、より良い職場環境を実現するための重要なスキルの一つである「傾聴」について、
その効果や、実際に職場で取り入れる際の具体的な実践ポイントを詳しくご紹介します。
従業員がいきいきと活躍できる環境づくりにご関心のある人事・マネジメントご担当者様は、ぜひ最後までお読みいただき、社内の風土改善や意識改革にお役立ていただければ幸いです。

傾聴とは


「傾聴」と聞いて、皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
「ただ黙って最後まで人の話を聞くこと」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここでいう傾聴とは、英語で “Active Listening(アクティブ・リスニング)” とも呼ばれ、相手の話に積極的に関わり、理解しようとする姿勢を意味します。つまり、単に黙って聞くことが傾聴なのではなく、相手に共感しながら、相手に関心をもって、心と耳を傾けて聴くことこそが、傾聴といえるのです。

傾聴の効果と職場環境に与える影響

このような傾聴の姿勢を職場で実践することは、従業員がいきいきと活躍できるような職場風土の形成につながっていきます。傾聴を実践することがどのように組織に影響を与えるのか、具体的に見ていきましょう。

信頼関係の構築

傾聴は信頼関係に影響を与えることが、過去の研究で明らかになっています。
話し手が発言したことを否定せず、受け止めようとする態度や行動は、「この人は自分に関心を持ってくれてる/理解してくれている」という信頼感を生み出します。

心理的安全性の促進

傾聴の実践は、組織の心理的安全性を保つ上でも重要なツールのひとつです。
心理的安全性とは、チームや組織において人間関係のリスクを取っても安心できる状態、つまり「自分の意見や気持ちを、誰に対しても安心して表現できる状態」を指します。自分の意見や失敗を伝えることや、リスクをともなう発言をしても避難されない職場環境づくりのために、大きな役割を果たすのです。

自己決定・自己成長の促進

過去の研究結果では、上司やリーダーがフィードバックを直接与えるよりも、部下の話を聴くスタイルの方が、部下自身に「変わりたい」と思う気持ちが育ちやすいということが分かっています。

これは、他者に話を「聴いてもらう」という体験を通して、自分の考えや感情を整理しやすくなり、自己理解が深まるためです。その結果、 「自分はこう考えているから、こう行動したい」といったように、自ら意思決定を行える主体性が育まれていきます。

そして、従業員一人ひとりが成長することで、組織全体が活性化し、高い労働生産性を発揮するチームの形成へとつながっていくのです。

傾聴の実践方法

傾聴とは、前述のとおり「ただ黙って話を聞くこと」ではありません。
相手に対して積極的かつ共感的に関わり、その姿勢が相手にも伝わることで、傾聴の効果が発揮されます。
そのために必要なのが、「基本的な態度」と「基本的な技法」です。この基本的な態度と技法を意識しながら、継続的にトレーニングを積み重ねることによって、誰でも傾聴の力を身につけることができるのです。

それでは早速、傾聴に必要な「態度」と「技法」をそれぞれみていきましょう。

傾聴の基本的態度

傾聴を学ぶ上で、アメリカの臨床心理学者であるロジャース(Carl R. Rogers)が提唱した3原則(基本的態度)を理解することが重要です。ロジャースの傾聴は、「相手の立場に立って、共感的に、評価や判断を交えずに話を聴くこと」を意味します。これは「共感的理解」とも呼ばれ、心理的に安全な関係を築くための土台とされています。
ロジャースは、対人関係を築く上で以下の3つの態度が必要だとしています。

傾聴の基本的態度

①共感的理解
相手の立場や気持ちを、あたかも自分のことのように感じ取り、正確に理解しようとする姿勢


②無条件の肯定的関心
相手の話や存在そのものを、評価や批判なく、無条件に受け入れる姿勢


③自己一致
聴き手自身が自分に対して正直であり、「偽りのない真摯な態度」で相手に接する姿勢


傾聴の基本的技法

傾聴において大切なことは、話し手に「理解されている」「受け入れられている」と感じてもらうことですが、そのために必要なのが、傾聴の基本的な技法といえます。
傾聴の基本的技法には多くのものがありますが、その中でもすぐに実践できる、基本的なポイントを3つご紹介します。

①うなずき、あいずち

「ええ」「はい」といった短い相づちやうなずきは、「自分の話をしっかり聞いてくれている」という安心感を与え、話し手の「もっと話したい」という気持ちを引き出します。

②伝え返し

「伝え返し」とは、話し手の言葉を相手の感情に共感しながら、自分の言葉で言い換えて伝えることを指します。こうすることで、話し手は「自分の話がきちんと理解されている」と感じ、安心して話し続けることができるようになります。

伝え返しには、話し手自身が自分の感情や考えに気づくきっかけをつくるという重要な役割もあります。
たとえば、話し手が「最近、仕事でプレッシャーがすごくて…正直きついんです。」と話した場合、聴き手は「プレッシャーが強くて、きつく感じていらっしゃるんですね。」といった形で伝え返すことが効果的です。

なお、そのままオウム返しのように繰り返すということではありません。声のトーンや感情を込めて伝えることで、相手により深い共感が伝わり、伝え返しの効果がいっそう高まります。

③感情の反射

感情の反射とは、話の中にある感情を表す言葉に着目し、それを伝え返すことで、相手に「理解されている」「共感されている」と感じてもらうための技法です。
たとえば、「不安」「つらい」「悔しい」といった感情を表す言葉を受け止め、
「不安だったのですね」「悔しさが残っているのですね」などと返します。
長く伝え返す必要はなく、言葉だけで返すだけでも効果があります。

この感情の反射は、傾聴における最も基本かつ重要な技法のひとつです。
話し手は、自分の感情をしっかり受け止めて言語化してもらうことで、内面の整理が進み、対話がより深まるきっかけにもなります。

また、「そんなふうに思ってはダメだよ」といった感情への評価や否定は避け、相手の気持ちに寄り添い、受け止めることを意識しましょう。

聴き手は話し手の”温かい鏡”になる

ここまで、傾聴の基本的な態度や技法、そしてその効果についてご説明してきました。傾聴のスキルは、基本となる姿勢を大切にしながら、繰り返し実践・トレーニングを重ねることで、誰にでも身につけることができます。

とはいえ、実際にすべての技法や態度を意識しながら話を聴くのは、時に負担に感じられることもあるでしょう。

そんなときは、「自分は、相手の心を映す“温かい鏡”である」というイメージを持ってみてください。そのような心構えで耳を傾けることで、傾聴の本質的な効果が自然と引き出されていきます。

非言語的コミュニケーション(ノン・バーバルコミュニケーション)の重要性

メラビアンの法則によれば、感情や態度を伝える際に人が受け取る情報の約9割は、視覚や聴覚といった非言語的要素に依存しているとされています。 具体的には、言語情報が7%、声のトーンが38%、表情や態度などの視覚情報が55%を占めるとされており、信頼や共感の形成に大きく影響します。そのため、傾聴においても、非言語的コミュニケーションは基本的態度や技法と並んで極めて重要な要素と言えるでしょう。

表情

表情は、相手に安心感を与える共感と関心がこもった自然な表情を心がけましょう。「ちゃんと聴いていますよ」「あなたの話を大切にしていますよ」という姿勢が表情に出ていることが重要です。過剰に笑顔を作る必要はありません。話の内容に合わない笑顔や機械的な笑顔は、かえって不信感を与えることがあります。

声色・声のトーン

声もまた“共感していることの表現”のひとつであり、大切な要素です。落ち着いたトーンでゆっくりとしたテンポで話すことで、安心感と信頼感を与えます。早口や高すぎる声・低すぎる声は避け、声の高さはやや低め〜中程度にすると良いでしょう。感情に寄り添うときには、「その気持ちに共感している」ということが伝わるように声に抑揚や温度感をつけると効果的です。

姿勢

傾聴の際は、相手に体を向け(正面よりもやや斜めに座る方が威圧感が少ない)、少し前傾姿勢を保つことが大切です。腕や足を組まず、落ち着いた動きで相手の話に集中することで、関心と受容の姿勢が伝わります。また、適度な距離を保ち、リラックスした雰囲気をつくることも重要です。このような工夫が、安心感と信頼関係の構築につながります。

傾聴でよくある誤解と注意点

よくある誤解

よくある誤解①. いかなる時も助言やアドバイスを行ってはいけない?
傾聴では、まず評価や意見を脇に置き、相手の話を丁寧に聴くことが大切です。ただし、これは「どんなときも助言やアドバイスをしてはいけない」という意味ではありません。
特に上司と部下、人事労務担当者と従業員といった関係性では、必要に応じて助言や指導を行う場面も当然発生します。重要なのは、最初から助言をするつもりで聞くのではなく、まずは先入観なく相手の話を聴いて信頼関係を築いた上で、一言添える形でアドバイスを伝えることです。また、アドバイスは押しつけず、選択肢を示して相手に考えさせる姿勢が、自己成長や主体性を育てます。


よくある誤解②. 話し手に自分の考えを合わせないといけない?
傾聴とは、「相手の考えにすべて合わせること」ではありません。
相手の話や感情を否定せず、理解しようとする姿勢で耳を傾けることが本質であり、必ずしも同意や受け入れを意味するものではありません。

特に、上司と部下、人事担当者と従業員など立場が異なる関係性では、意見や価値観が違うのは自然なことです。
だからこそ、まずは「相手がどう感じ、何を考えているか」に関心を持ち、その思いに丁寧に寄り添う姿勢が求められます。

たとえ考えが異なっていても、その違いを否定せずに受け止め、対話を通じて相互理解を深めることが誠実な傾聴です。
職場では、「聴く → 理解する → 対話する → 共に考える」というプロセスを大切にすることで、信頼関係と建設的な関わりが育まれていきます。


傾聴の注意点

傾聴を実践するとなると、意外に多くの「誤解」や「落とし穴」が存在します。
特に、相談対応や対話の場面では、善意からの対応がかえって傾聴の妨げになることもあります。ここでは、傾聴を実践するうえでありがちな誤解や注意すべきポイントについて整理し、信頼関係を築くために本当に大切な姿勢や関わり方を確認していきましょう。


注意点①. 話し手の問題の原因を追究し過ぎない
論理的な人ほど原因追究に意識が向きやすく、無意識のうちに調査的な質問をしてしまいがちですが、それは話し手に「責められている」「評価されている」と感じさせ、感情を表現しにくくさせる原因になります。傾聴の目的は相手が自分の感情や考えに気づき、整理できるよう支援することです。
そのため、傾聴の段階では原因追究よりも、思いや考えを表出しやすくする関わりを意識することが大切です。原因の分析と傾聴は、切り分けて行いましょう。


注意点②. 自分の経験で話をすり替えない
「私も昔こういうことがあってね…」と自分の話に持っていくと、話の主導権を奪ってしまい、受け止めてもらえた感覚を持つことができません。傾聴するときは話し手の気持ちを主役に据え、共感や受容に徹することを心がけましょう。


注意点③.沈黙を恐れない
無言の時間が続くと、つい「何か話さなければ」と不安になることがありますが、沈黙は決して悪いことではありません。
むしろ沈黙は、相手が自分の感情や考えを整理し、内面と向き合うための大切な時間です。焦って言葉を埋めようとせず、その場に静かに寄り添うこと自体が、信頼のメッセージとなります。
また、相手の話すスピードや間の取り方に合わせることで、「自分のペースを大切にしてくれている」と感じてもらいやすくなり、安心感が生まれます。
傾聴においては、沈黙もコミュニケーションの一部と捉え、受け止めていく姿勢が大切です。


”傾聴力”を高めるために人事労務担当者ができること

傾聴力を高めることは、人事労務担当者にとって重要なスキルです。従業員や管理職との信頼関係を築き、より良い職場環境をつくるためにも、日常的な意識と取り組みが求められます。以下に、人事労務担当者が傾聴力を高めるためにできる具体的な方法をいくつかご紹介します。

人事労務担当者自身が日常の面談や会話で「受容・共感」の姿勢を意識する

話し手が「どう感じているか」「どんな気持ちで話しているか」に注意を向け、相手の感情を否定せず、「そう感じたのですね」と受け止める反応を心がけます。

傾聴の研修やトレーニングを受講・実施する

社内(特に管理職向け)に傾聴スキルをテーマにした研修やワークショップを導入することも効果的です。ロールプレイを通じて実践を重ねることで、“知識”から“行動”に落とし込むことができます。

面談時に“アドバイスよりも理解”を優先する

特に相談対応では、「解決策を出さなければ」と焦るのではなく、まずは相手の話を丁寧に聴き切ることを大切にしましょう。「どう感じていますか?」「どんな思いがありますか?」と話し手の感情や気持ちに焦点を当てた問いかけを用いて、相手を受け止めることを優先させましょう。

自分自身の“聴き方のクセ”を振り返る

つい結論を急いでしまう、アドバイスが早い、無意識に評価してしまう…など、自分の傾聴スタイルを自己点検してみましょう。必要に応じて、フィードバックを受ける機会を設けることも効果的です。

まとめ

本記事では、心理的安全性の高い職場づくりに役立つ「傾聴」の実践方法についてご紹介してきました。最後に、傾聴を実践するうえで特に重要なポイントを、6つに絞って整理してお伝えします。

①傾聴の定義と重要性

傾聴とは「ただ黙って聞くこと」ではなく、共感的・能動的に関わる姿勢を指す。上司や人事担当者がこのスキルを持つことで、職場に安心感が生まれ、社員が本音を語りやすくなる。

②傾聴がもたらす組織への効果

・信頼関係の構築:否定せずに聴くことで、理解されているという安心感が生まれる
・心理的安全性の向上:安心して意見や失敗を共有できる職場が育つ
・自己成長・主体性の促進:聴かれることで自己理解が深まり、行動変容が自発的に起こる

③傾聴の基本的態度と技法

ロジャースの理論に基づく「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」が土台であり、実践技法としては、以下の3つの方法がある。
・うなずき・相づち:安心感を与える
・伝え返し:理解の確認と深まり
・感情の反射:共感を伝え、自己理解を促す

④非言語コミュニケーションの重要性

言語以外の情報(表情・声のトーン・姿勢など)も信頼感の形成にかかわる。自然で温かい表情や落ち着いた声、前傾姿勢などが、安心と共感の伝達に有効である。

⑤傾聴にまつわる誤解と注意点

よくある誤解
・「アドバイスしてはいけない」という誤解
・「相手にすべて合わせないといけない」という誤解


傾聴の注意点
・原因追究しすぎず、感情の表出を優先する
・自分の経験で話を奪わない
・沈黙を恐れず、相手の内面が整理される時間として尊重する

⑥傾聴力を高めるために人事ができること

・面談で共感・受容の姿勢を実践する
・傾聴研修やロールプレイで行動レベルまでスキルを定着させる
・アドバイスを急がず、まず理解する姿勢を貫く
・自分の聴き方の癖を振り返り、フィードバックを受ける機会をつくる

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